行くぜ、東北。JOURNAL
No.012 2020.1.31
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アウトドア×漆器。伝統産業に風穴を開けた「100年使える」野あそび漆器

城下町・会津の伝統産業のひとつで、400年の歴史を持つ「会津塗」。
各地の伝統産業品がふだん使いとしては離れつつある中、カジュアルで使いやすいオリジナルの漆器・ノダテシリーズで時代の壁に風穴を空けた、会津若松市内の老舗・㈱関美工堂の関昌邦社長を訪ねた。

伝統産業、会津漆器、時代の壁。
漆器のほか会津木綿などローカルなデザインアイテムが並ぶ店内
「海外では“Japan”=“漆器”と言われていますが、現地での実感としてそんなことはありません。本来の漆器とは木地に天然素材の漆を塗ったものですが、そもそも漆器の認知度が極めて低いんです」と関社長はのっけから海外での現状を語る。だがそれは国内も同様で、モノ溢れの現在「暮らしになくてはならないモノ」から「まあ、なくてもかまわないモノ」に位置づけられ、“コンスタントに売れない→付加価値をつけ単価を上げる→手が届きにくい”というループに入ってしまっている。その伝統産業に風穴を開けたのが、㈱関美工堂のオリジナル漆器「ノダテマグ」のシリーズなのである。
事業パートナーでもある奥様の千尋さんと打ち合わせする関社長
音楽フェスにも持って行けるカジュアルさ
リュックに下げられる革紐付きのノダテマグシリーズ。大きい順にone、mug、tanagocoro、choco
認知の低さは「わかりにくさ」にあるのではないか。そう気づいた関社長は透けた漆で木肌を見せ、漆器が木製品であることを一見に伝えると、海外の展示会場では一流ブランドのバイヤーに囲まれたという。ここから始まった機能を優先したシンプルでカジュアルな漆器は、これまで無かったアウトドア市場のニーズをつかむことになる。
ベースとなる木地は国産のトチの木
環境負荷の少ないエシカルなうつわ
角度などによってさまざまに使い分ける刃物類はすべて木地師のハンドメイド
さまざまな素材のキッチンツール、テーブルウェアが溢れている現代にあって木をベースにする漆器は、「食洗機も使えない、なんだか面倒なうつわ」と敬遠されているかもしれない。だが、漆は軽くて堅牢であり、抗菌性に優れた機能性にこそ特長がある。そして何より、やがては土に還る自然素材のみで作られた、環境負荷の少ないエシカルなテーブルウェアであることにも注目していただきたいところだ。
マグシリーズは底が深いため内側の加工が難しい
外側のフォルムを美しく仕上げる木地師
漆器のベースとなるトチなどを成形する“木地挽き”は、回転するロクロに付けた木地より削り出す作業だ。経験と手の感覚がモノをいうため、職人によってクセが違う。ノダテシリーズは品質と価格のバラツキを減らす目的で、内側と外側の加工を違う木地師に分業している。スタートからフィニッシュまで一人作業が通常の業界では初の試み。
漆を塗ってすぐ、木肌に擦り込むように拭き取る工程を繰り返す
“拭き漆”の技法は、漆器の代表的なイメージである“艶塗り”の工程と比較すればシンプルだが、そのぶん木地の仕上げに丁寧さが求められ、後工程でのフォローがきかない技法なのである。
ホオの葉のかたちの皿に葉脈を漆で描く
漆が木地の美しい木目を際立たせる“拭き漆”は木地の吸い込みによるムラもまた個性に。ほぼ毎日使っていても、見た目ほど弱くない。塗り直しも容易で「100年以上使い続けられると思いますよ」関社長は笑んだ。
漆で図柄を描く漆絵や、朱の顔料を蒔いて磨く朱磨き、金や銀などの金属粉を蒔く蒔絵など、様々な加飾の伝統技法も駆使。漆芸界と縁のなかったアーティストとのコラボ作品も増えつつあり、これからの漆器ウェアの可能性を広げている。その息吹はぜひ現地にて感じていただきたい。
手頃な価格帯もシリーズの魅力
朴葉がモチーフの皿は木地材料もホオノキを使用
軽量、使いやすさを旨とするこのシリーズは比較的リーズナブルに入手できるところも魅力。少しくらいのスリキズなどほとんど目立たないマット仕上げなのも、気軽に外で使って欲しいという関社長の思いがあるからだ。
手描き蒔絵のbeto juとプレート、革紐付きのお箸
会津若松市の中心部にある印象的な外観の店舗
会津の漆器産地としての大きなメリットは、古くから豊富な森林資源を生かした会津圏内での一貫生産が可能なところにある。江戸時代までは漆の栽培と採取も行われており、現在その再生の試みも続けられている。 熟練から若手へ、この地で綿々と大切に伝えられてきた“ものづくりのコミュニティ”こそが会津の大いなる個性となり、新しい発想で「この地にしかないもの」を生み出す原動力となっている。

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