行くぜ、東北。JOURNAL
No.013 2020.3.11
食べる

ICT技術と故郷復興への想いが生んだ「食べる宝石」

国内屈指のイチゴ産地として知られる宮城県山元町に、年間約5万人が訪れるイチゴ農家がある。お目当ては最先端のICT(情報通信)技術で生産される「ミガキイチゴ」。“食べる宝石”と呼ばれる高級イチゴを生産するのは、山元町出身のIT起業家、岩佐大輝さんが代表を務める「株式会社GRA」だ。岩佐さんのもとを訪ね、ミガキイチゴ誕生の裏話やイチゴ生産に込めた想いなどを伺ってきた。

大きさ、糖酸比、香り、いずれも高い基準をクリアした「ミガキイチゴ」
農業生産法人 株式会社GRA 代表取締役 CEOの岩佐大輝さん
自然とICT、人の想いで生まれたイチゴブランド
山元町にある本社。宝石をモチーフにしたロゴが目印だ
JR仙台駅から常磐線で約45分、JR山下駅より徒歩約9分のところにある株式会社GRA。農園では真っ赤に熟したイチゴがピカピカと輝き、1~5月のイチゴ狩りシーズンは、国内のみならず海外からも大勢の観光客が訪れる。
栽培しているのは、「とちおとめ」「もういっこ」「よつぼし」と、フローラルな香りが特徴の独自品種「ハナミガキ」の4品種。収穫されたものの中から、極めて厳しい品質基準をクリアしたイチゴだけに「ミガキイチゴ」の称号が与えられる。「ミガキイチゴ」とは、高品質を保証するイチゴブランドだ。
その名前には、「イチゴ産地としての環境、最先端のICT・サイエンス、生産者の想いによって磨かれた、おいしいイチゴを届けたい」という信念が込められている。

「世界的に農産物は価格だけで売買されがちですが、一生懸命つくって特別においしいイチゴができたら、そこにきちんと価値をつけるべきだと考えたんです。そのためにブランディングの必要性を感じました」と岩佐さん。

「ミガキイチゴ」を一口食べると、濃厚な甘酸っぱさと豊かな香りに驚かされる。それはICTとサイエンスを駆使した生産方法に加え、完熟してから収穫するという“おいしさ重視”の考えによるものだ。

「『ミガキイチゴ』は糖酸比と香りのバランスを大切にしています。コクがあって甘さと酸味がはっきりした濃厚な味です。サイズ・糖酸比・香りを厳しく選別し、基準に満たなかったものは『ミガキイチゴ』として市場に出ることはありません。完熟イチゴの収穫には高いスキルが必要ですし、輸送にも気を遣いますが、おいしさのために妥協はできません」(岩佐さん)。
自分のフィールドで故郷のイチゴ生産の復活を支えたい
津波で車や瓦礫が散乱していた場所が、山元町の誇りを守るイチゴハウスに
岩佐さんは生まれも育ちも山元町。両親の実家も山元町にある。かつて母方の祖父がイチゴ農家だったが、岩佐さんが幼い頃に引退。東京の大学に進学し24歳でITベンチャーを起業するまで、イチゴ生産に携わる機会は無く、イチゴをビジネスにしようと考えたことはなかった。

そんな岩佐さんに転機が訪れたのは東日本大震災。津波により町の基幹産業であるイチゴが大打撃を受け、約95%ものイチゴハウスが流失。震災後、毎週ボランティアに訪れていた岩佐さんは、故郷の姿を前に「自分の得意分野で会社をつくり町に貢献したい」と、すぐさま行動に移した。

「まず、復興イベントで数百人の町の人にアンケートを取りました。その中で、“皆さんにとって町の誇りは何ですか”という問いに、7割もの人が“イチゴ”と答えたんです。そこで、みんなの誇りであるイチゴで町を復興させよう、インパクトのある世界的なイチゴブランドをつくろうと決意しました。震災から半年後のことです」。

設立メンバーは、岩佐さんと現副社長、40年もの経験を持つイチゴ農家の計3人。岩佐さんも副社長もイチゴづくりは素人だったため、プロのアドバイスを受けながら手作りのハウスで栽培を開始。その合間にイチゴの生産国や日本で一目置かれているイチゴ農家、さらに研究機関を回り勉強したという。
土ではなくヤシ殻を使い、潅水チューブで養分を与えている
制御室のコンピュータが、温度や湿度などの詳細なデータを管理し自動でコントロールする
「日本の農業は勘と経験の世界と言われていますが、最先端の農業を見るとサイエンスがしっかり生かされているんです。ここにテクノロジーを導入すれば生産性が上がると確信しました」(岩佐さん)。

GRAの農園では、長年生産に携わってきた職人の勘や技術がデータ化され、それに基づき温度や湿度、CO²濃度、日照時間などあらゆるものが自動制御されている。さらに、研究結果や毎年の成果も分析し翌シーズンの生産に反映。こうして年々おいしさに磨きをかけている。
ICTやIoTといった岩佐さんの得意分野が、これまでのイチゴ生産を変えた
海外からも訪れる大人気のイチゴ狩り
同社内で運営されているミガキイチゴアカデミーでは、生産者を育てる取り組みを実施。すでに9組の研修生がハウスを建て独立に成功している
GRAの農園『ICHIGO WORLD』を訪れるのはイチゴ狩りを楽しむ観光客だけではない。世界各地の農家や研究機関が勉強のためにやってくる。
「日本のおいしいイチゴが高温多湿の環境でどうやってできるのか、そのテクニックを学びに来られる方が多いですね。我々の技術でほかの地域が豊かになることに社会的な意義を感じているので、知財として管理すべきもの以外はオープンにしています」(岩佐さん)。
「ミガキイチゴ」だけを使ったスパークリングワイン「ミガキイチゴ・ムスー」など、さまざまな商品を展開
また、GRAでは「ミガキイチゴ」を使ったさまざまな商品を販売。宮城県の醸造所と組んだ日本酒、山梨のワイナリーとコラボレートしたスパークリングワイン、東京の酒蔵と作ったどぶろくなど、各地の企業と共同開発している。
さらに、イチゴスイーツ専門カフェ『いちびこ』は、2020年1月現在で都内に8店舗、宮城県内に1店舗を構え、2ヶ月に1店舗のペースで拡大中だ。
2020年のイチゴ狩りは5月30日まで。「おいしいイチゴを用意してお待ちしています!」(岩佐さん)
「イチゴは11~5月しか獲れませんが、季節を問わず販売できるイチゴ商品を展開することで“地方に強い雇用を作る”という目的を実現させています。一年を通して「ミガキイチゴ」の名前が多くの方の目に留まれば、忘れられることもありません。夏イチゴ栽培の実証実験も成果が出ているので、今後は一年中おいしいイチゴが食べられると思いますよ」(岩佐さん)。

「ICHIGO WORLD」での2020年のイチゴ狩りは5月30日まで。入園者数に限りがあるため予約は必須だ。Webで簡単に予約できる。
「これからも堅実においしいイチゴをつくり続けたい」と語る岩佐さん

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