行くぜ、東北。JOURNAL
No.014 2020.3.18
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忠犬ハチ公の生まれ故郷・秋田県大館を訪ねて。

人間と犬の強い絆を描いた「忠犬ハチ公」。東京の渋谷駅で亡き主人の帰りをずっと待ち続けたハチの物語は、多くの人の心を打った。ここ秋田県大館市はハチの生まれ故郷として知られ、近年の秋田犬ブームと相まって注目されている。ハチの生誕地を訪ねるため、大館市へと向かった。

こんなところにも! ハチ公は、いつもそばにいる。
秋田犬会館前には、ハチ公晩年の面影を偲ぶ「望郷のハチ公」像。その顔は渋谷の方角を向いているのだとか
秋田県北部に位置する大館市は、秋田杉を用いた曲げわっぱの産地で有名だ。大館市の産業部観光課観光振興係に話を聞くと、「大館市内の至るところにハチ公がいますよ」とのこと。カメラを片手に大館の街を散策してみた。
大館市役所の入口にあるポストの上にも、凛々しく立つハチ公の姿が
公衆トイレの屋根にも……ハチ公?
マンホールの蓋にまでハチ公!?
大館駅前の新名所「秋田犬の里」でハチの生涯をたどった。
大館駅目の前の「秋田犬の里」
ハチ公は牡犬の「秋田犬」。そんな秋田犬の歴史や特徴を知ることができる観光施設「秋田犬の里」が2018年春、大館駅前にオープンし、県外や海外からの観光客も多く訪れている。
今も生家は残り、ハチ公像と石碑を自由に見ることができる
なぜハチ公の銅像やモチーフが街に多いのか、「秋田犬の里」の石田徹さんに話を聞いた。 ハチ公は大館市大子内の斎藤家で1923年(大正12年)に生まれた。かねてより「日本犬の子犬が欲しい」と願っていた東京帝国大学の教授・上野英三郎博士に、縁あって生後50日くらいで引き取られ、東京に引っ越したのだそう。
帰らぬ主人を渋谷駅で何年も待ち続けたというのは有名な話。「秋田犬の里」は当時の渋谷駅舎を模した外観になっている(パネルは同館に展示)
食事を共にするほど博士に可愛がられ、現東京都渋谷区の上野宅から渋谷駅や大学までの送り迎えをするほど博士を愛し、ハチと博士の間にはいつしか強い結びつきが生まれたという。

しかし1925年(大正14年)に博士が急逝。ハチは上野宅から引き離されさまざまな場所を転々とし、渋谷の上野宅の近所に引き取られ戻ってきた。その後、再び渋谷駅で目撃されるようになったといわれている。
ハチ公や秋田犬が『観光』という分野でクローズアップされてきているのは、ここ数年。大館市民にとっては、ハチ公や秋田犬が〈大館市の宝〉という意識はなく、これまでの暮らしの中で当たり前の存在だったのかもしれない。
「秋田犬の里」の石田徹さん(大館市産業部観光課観光振興係)
「周囲の盛り上がりに、これまで気付かなかった秋田犬やハチ公の良さを教えていただきました。最近では、フィギュアスケーターのアリーナ・ザギトワ選手に秋田犬のマサルちゃんが贈られたことだったり、もう少し遡ると2009年に公開された映画『HACHI 約束の犬』が契機だったのかなと思います」と、石田さん。
「近年、映画やドラマの聖地巡礼が流行っていますよね。『忠犬ハチ公』の物語は渋谷が主な舞台だと思うのですが、ルーツは大館市というのが認知されてきていると感じています」と目を細めた。
忠犬ハチ公よりはるか昔に伝わる、もう一つの忠犬物語。
犬を祀っている神社は、全国でも珍しい
秋田犬は昭和初期に天然記念物指定をされて、大館犬から秋田犬という呼び名に。秋田犬のルーツはマタギが飼育していた狩猟犬、いわゆる土着犬だった。

江戸時代の中期、どこで猟をしても良いという「マタギ免状」を持ったマタギの定六が鹿角地域でシロという犬と一緒に狩りをしていた。ある日、免状を忘れて山に入った定六は、獲物を夢中で追いかけるあまり領地を越えたことで捕まってしまう。定六を助けるため、シロは免状を取りに自宅へと戻るが、免状を持って代官所に到着した時、すでに定六は処刑された後だったそう。
その後、主を殺された忠犬シロの怨念を鎮めるために建てられたのが、この「老犬神社」だ。
社殿は自由に参拝できる
一人の主人に忠誠を尽くす秋田犬だから生まれた忠犬物語。
「秋田犬の里」で一番人気の「マサルぬいぐるみ 座りポーズ(M)」
巻き尾、立ち耳、太くて長い肢、大型など、特徴的な体形を持つ秋田犬。その見た目以上に、特徴的なのは気質である。「洋犬に比べて、日本犬はワンオーナー(主人は一人)という特性が顕著と言われています。ハチやシロの物語にもあるように、その代表格は秋田犬だと思っているんですけどね」と話す石田さん。
「秋田犬の里」の展示室では、間近で秋田犬に会える
「ご主人様が大好きで、信頼を得ると親密な付き合いができる犬です」。

他人には簡単に懐かないけれど、主人にだけ心を許し、主人にしか見せない表情を浮かべる。そんな秋田犬の特性は、〈恥ずかしがり屋だけど、一度打ち解けたら仲が深まる〉秋田県民の気質と似ているような気がする。
「秋田犬の里」前にいるハチ公像
太古の昔から犬は人間のパートナーであり、良き理解者であったという説がある。その関係性は今も変わらず、世界中で多くの人々が犬に愛を、そして勇気を与えられている。街ににぎわいや話題を生み出し続けるハチ公や秋田犬もまた、これからも人々を魅了してやまない存在なのだ。

忠犬ハチ公のふるさと・大館市。さまざまなスポットでハチ公は、今日もご主人の帰りをじっと待っている。

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