行くぜ、東北。JOURNAL
No.017 2020.3.31
食べる

盛岡市民のソウルフード「福田パン」。地元で長く愛されてきた理由とは?

日本各地には、その土地で愛されている「地元パン」がある。子どもの頃から慣れ親しんだパンの味は大人になっても忘れられないもの。岩手県盛岡市の「福田パン」は、他県からもファンが訪れるほどの人気店だ。盛岡市民のソウルフード「福田パン」をもっと知りたくて、店を訪ねた。

地元の人も大好きな福田パン直営店

クリームやジャムなどが入った缶がずらり
福田パン長田町本店は、JR盛岡駅から歩いて15分ほどの場所にある。平日の昼間でも、小さな子供を連れたお母さん、杖をついたおばあさん、仕事の合間のサラリーマン、観光客など、客足が途絶えることがない。
実は、福田パンのコッペパンは盛岡市内のスーパーでも販売されている。それでもわざわざ対面販売の直営店で買うのは、好みのクリームを塗ってもらえることはもちろん、お店のスタッフから手渡されるコッペパンの、ぽってりとした形とずっしりした重さに、ちょっぴり特別なものを感じるからだ。
組み合わせは2,000通り以上。迷うのも楽しい福田パン
「今日はあれを買おう」と決めて来たのに店に入るとつい悩んでしまう
どの人も皆、店に入るや否や上を見上げることになる。メニュー表がカウンターの上にあるのだ。列に並びながら、どれにしようかと悩むのも対面販売のお楽しみ。
メニューは、大きく分けて「甘い系」と「調理系」がある。甘い系は、あん、ピーナツ、ジャム、まろやかチョコ、バナナ、ブルーベリークリームなど33種以上。調理系は、たまご、ポテトサラダ、コンビーフ、チキンミート、カレー、れんこんしめじなど約20種もある。
根強い人気はあんバター
一番人気の「あんバター」。この塗り方はミックス
甘い系と調理系の組み合わせはNGだが、味の組み合わせは2,000通り以上になるというから驚く。そして、塗り方にも工夫がある。それぞれの面に一種類ずつのクリームを塗りパタンと合わせる「ミックス」。上下に分けてクリームを塗り、味が混ざらないようにする「半々」。
定番の「あんバター」をオーダーすると、ぱかっと開いたコッペパンの両面に素早くあんとバターが塗られる。透明な袋に包み、シールを貼って完成だ。流れるような動作であっという間に出来上がる。
一番人気の「あんバター」は、販売数の3割を占めるという。2位はピーナツバター、3位はジャムバターと続く。
あんと抹茶も人気の組み合わせ
「オリジナル野菜サンド」。こちらもボリューム満点だ
ぽってり大きなコッペパンは、お腹を空かせた学生のために生まれた。
三代目の福田潔さん。長田町本店の店内にて
福田パンといえば、今やコッペパンが店の代名詞。福田パン三代目で社長の福田潔さんに話を聞いた。
福田パンは、潔さんの祖父の福田留吉さんによって1948(昭和23)年に創業した。店頭でジャムやクリームを塗って販売するというスタイルは当時から行っていたが、初めは食パンに塗っていたという。コッペパンが登場したのは昭和24年ごろ。岩手大学でパンを販売するようになったのがきっかけだった。
創業者の福田留吉さん。福田パンは2018年に創業70周年を迎えた
当時の日本はまだ食糧が十分になく、大学生はお腹を空かせていた。学生時代に空腹を耐えしのいだ経験がある創業者の留吉さんは、学生たちの空腹を満たしてあげたかった。そこでパン一個と牛乳で、ご飯茶碗一杯と味噌汁一杯分のカロリーが摂れるようにできないかと考え、大きなフランスパンに着目した。フランスパンでは固いため、ガブリと食べるのに向いていないのではと、柔らかい食感に改良したのがソフトフランスパンだった。大学の購買部でこのパンを売ったところ、安くて美味しくて腹いっぱいになると学生の間で話題になり、人気に火がついたという。
一食分をまかなう大きさなので、今のコッペパンより大きかったと思われる。
コッペパンの形の秘密
オーダーを受けるまで待機しているコッペパン
コッペパンと一口に言っても、いろんな形がある。細長いものもあれば、真ん中に切り目を入れたドッグ型など、様々だ。
福田パンのコッペパンは、どちらかというとぽってりと厚みがあり幅も広め。社長の潔さんによると、
「うーん、この形になったのはなんででしょうね。細長いとムラがなく均一に焼けるのですが、うちはこの形でやってきましたね。クリームを塗る面も広くていっぱい塗れるし、何より田舎くさい感じでいいのかなぁと思っています」と話す。当初はフランスパン特有の切り込み「クープ」を入れたこともあるが、ソフトフランスとして販売されるようになってからは、概ねこの形だという。
がぶりと噛み付いた一口目から美味しいのは、幅の広いコッペパンの隅っこまでクリームが塗られているからだ。潔さんは「田舎くさい」と言うが、この形が「福田パンらしさ」の一つでもある。
ブルーベリーとヨーグルトクリーム
受け継がれる「もったいない」精神
店内に貼られた言葉にほっこりする
ひとつひとつその場でクリームを塗る福田パンの対面販売。この手間が食品ロスの削減にも効果をもたらしている。
あらかじめクリームや具を挟んだ状態で販売すれば、売れ残ったものの中身までロスになってしまう。しかし、注文を受けてからクリームを塗る福田パンでは、余るのはパンのみ。クリームは冷蔵庫に入れて保管できる。
「できるだけ廃棄したくないんですよ。パンが残ったら近くの教会に寄付するとか、飼料にしています。捨てるのは、もったいないじゃないですか」と潔さん。この「もったいない精神」は、創業者の留吉さんから、ずっと受け継がれているという。
「受け継いでいるというか、昔の人はものを大切にしてきましたよね。それを今もやっているだけです。ずっと地元の人に支えてもらっているので、余ったものや不要になったものでも、必要な人がいたら、どうぞと。もちつもたれつだと思うんですよ」と話す。
これからも盛岡で続けていく。地元を愛し、地元に愛される福田パン
スタッフは無駄のない動きで手際よくオーダーに応じる
福田パンは代々、地元をとても大切にしてきた。県外の催事などで販売をすることはあるが、これだけ有名になっても県外まで販路を拡大することはない。
「もっと私に経営手腕があれば考えたかもしれませんが、そうではないので。今の従業員と一緒に、会社を維持していければいいと思っています」と潔さんは謙虚に話す。
今も福田パンの直営店があるのは盛岡市内だけ。生まれ育った盛岡の街が大好きな潔さんは「福田パンを食べたい人は、ぜひ盛岡に来て欲しい」と話す。
これだけキャッシュレス化が進んだ今でも、福田パンは現金払い。そこには、お客さまとのコミュニケーションを大切にしたいという想いもある。
レジ袋には福田パンのトレードマークがプリントされている
福田パンは今も昔も「青春の味」。世代を超えて愛される存在に。
学生に支持されてきた福田パン。外観は昔の木造校舎のイメージだ
大学の購買部で販売するソフトフランスとして始まった現在のコッペパン。盛岡市内の高校の購買部で販売していたこともあり、盛岡で青春時代を送った人は、福田パンを青春の味として思い出す人が多い。
「昼食を食べても福田パンは別腹」
「チャイムがなったら購買部にダッシュ」
「部活の前に後にみんなで食べた」など、福田パンの思い出話は尽きない。学生時代に食べた味は忘れられないものだ。今学生時代を過ごしている人も親になってまた「懐かしい味」と福田パンを食べるに違いない。
時代は変わり、街も変わりつつある。でも、ぽってり、ずっしりした「福田パン」は、これからも変わらず愛され続けるだろう。
ぽってり大きいコッペパン。大人も子どももみんな福田パンが大好きだ

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