行くぜ、東北。JOURNAL
No.007 2019.11.21
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世の中を明るく照らす、鶴田のユニークな人たち。

青森県鶴田町を拠点に活動を続ける「ツル多はげます会」は、髪が薄い人たちで結成されたユニークな集団だ。「はげの光は平和の光 暗い世の中 明るく照らす」のスローガンのもと、平成元年に結成され、30年以上にわたって多くの人を励まし笑顔にしてきた。

「ツル多はげます会」の本拠地、鶴田町に到着。町内には鶴を模した建造物が多数
今回の取材の起点となったJR陸奥鶴田駅の駅舎もよく見ると鶴がモチーフになっている。
「ツル多はげます会」が生まれた青森県鶴田町は津軽平野の中央に位置し、米やリンゴ栽培など農業が盛ん。とくに「スチューベン」という品種のぶどうは、日本一の産地でもある。 その昔、鶴が多く飛来したことが町名の由来だという。このことから、鶴にちなんだ町づくりが行われていて、町には鶴のモチーフがたくさんある。
JR陸奥鶴田駅近くにある、鶴がデザインされた外灯。
1994年、津軽富士見湖に架けられた「鶴の舞橋」。全長は約300メートルある。
鶴田町の観光スポットといえば、富士見湖パークにある「鶴の舞橋」が有名だ。この橋は、藩政時代からのため池である津軽富士見湖に、「日本一長い木の橋 三連太鼓橋」として架けられた。まるで鶴が翼を広げたような景観が美しい。
このように、鶴にまつわる物に事欠かない鶴田町。町名と“つるっぱげ”を引っかけて結成された「ツル多はげます会」もまた、鶴田町を語るうえで忘れてはならない要素なのだ。
ハゲを笑いに変える、ツル多はげます会の魅力とは。
「ツルツルじゃないのに騙されて会長になった」とユーモアたっぷりに笑う、須郷貞次郎会長。
我々を出迎えてくれたのは、「ツル多はげます会」の六代目会長を務める須郷貞次郎さん。同会は1989年2月22日、鶴田町に住んでいた故・竹浪正造さんが音頭を取って発足した。竹浪さんら髪の薄い3人の男性が酒席を開いた際「ハゲの会を作ろう」と意気投合。鶴田だけに“ツルツル”なメンバー10人を集め、「ハゲでいろいろな人をハゲます」をコンセプトに旗揚げされた。須郷さんによると2019年9月現在、会員はスカウトマンがいる鶴田町、弘前市、青森市を中心に13都道県に81名もいる。

ちなみに2月22日は、2(ツウ)が連なるツルツルの日であるが、結成当時はこの洒落に誰も気づかなかったとのこと。粋な男衆が集まる同会には、間違いなく洒落の神様がついていることを思わせるエピソードである。
地元ではカリスマ的な存在だった創設者の故・竹浪正造さん。
竹浪さんは創設以来23年間、同会の幹事長を務めた。若い頃から絵を描くことが得意で、93歳だった2011年には、56年間つづった絵日記をまとめた『はげまして はげまされて』(廣済堂出版)を出版している。
竹浪さんをはじめとする面々がハゲ頭を絶妙なセンスで笑いとばす姿に、まわりの人は次第に魅了され、そして励まされた。なかでも年に2回の例会とされる会の創設日と中秋の名月の日に行う通称「有多毛(うたげ)」で披露される「吸盤綱引き」はインパクト抜群で、これまで多くのメディアにも取り上げられた。
竹浪さんが残したイラスト。ツル多はげます会の活動の極意が、ユーモアたっぷりに描かれている。
同会のメンバーは、社会貢献活動として春の交通安全運動にも毎年参加している。ハゲ頭を小学生に触らせて「毛が(ケガ)無い」と、交通事故防止の呼びかけを行うのが恒例だという。「最近は、拝まれるようになって」と笑う須郷さん。活動の一つ一つが洒落とユーモアに溢れているから、内容を聞くだけでふっと笑ってしまう。「私たちの前ではハゲの話はご法度でないんだ。笑って楽しんでってけ」。

須郷さんは、竹浪さんの遺志を継ぎ、活動に力を注いでいる。今後は「世界のハゲの聖地」を目指しているという。「ハゲのノーベル賞やハゲ神社建設、ハゲのモニュメント建設などを今進めているところ。最終目標はハゲリンピックの世界大会だな。HAGEを世界の公用語にしたい。1年かけて考えたんだ」と、須郷さん。今後も、ツル多はげます会の活動から目が離せない。
青森県産ヒバを使った高さ20センチの怪(毛)我(が)無し御神体。
令和最初の例会「中秋の有多毛(うたげ)」がスタート。会場は想像以上の熱気に包まれた。
2019年9月13日、山田温泉にて秋の例会「中秋の有多毛」開催。
2019年9月13日。ツル多はげます会、令和初の例会へと足を運んだ。会場には多くのマスコミ取材班や一般見学者が詰めかけるほどで、注目度の高さがうかがえる。ちなみにこの日は、特別ゲストに国会議員の先生方も参加していた。令和初にふさわしい、スペシャルな一日だ。 開会宣言、会長挨拶と進み、最初のイベントは「名月当てクイズ」。月の部分に穴を開けた月見の絵から、さまざまなハゲ頭が出てくる。趣の異なる名月を鑑賞しながら美味しい酒を飲み、誰の頭か当てるという、なんとも粋な遊びだ。
吸盤綱引きに続く名物イベント。ちなみに、2月22日の「新春の有多毛」では、「平和の光当てクイズ」と趣向が変わるとのこと。
名月当てクイズで会場は笑いに包まれ、和やかな雰囲気に。次のイベントは、「ハゲピタダーツ」だ。ハゲ頭めがけて冷却シートを投げるというもので、見学者が投げ手となる。光栄なことに、筆者も冷却シートの投げ手に選ばれた。
そして迎えた1投目。考えてみれば、その日初めて会った人の頭をめがけて物を投げるという行為に気が引けてしまう。勇気を出して投げるも弱々しく放物線を描いた冷却シートはハゲ頭の手前に落ちそうに。受け手の会員さんはすかさず前のめりでナイスキャッチ。これに快感を覚え、続く2投目、3投目は結構な力で投げつけてしまったが、会場は湧いた。みんなでハゲを笑い飛ばす。ハゲで人をはげます会の例会であることを思い出し、ひそかに感激した。
ここで使った冷却シートは、続くイベント吸盤綱引き時に再利用される。
クライマックスを飾るのは吸盤綱引き。ハゲ頭同士の一騎打ちを見守った。
ゲームとはいえ参加者は真剣。見学者にも緊張感が伝わってくる。
いよいよメインイベント「吸盤綱引きトーナメント」の時間がやってきた。吸盤綱引きのルールはいたってシンプルだ。ハゲ頭に吸盤を吸い付けて綱を引き合い、吸盤が外れたほうが負け。1回の対戦で3本勝負を行い、2本先取したら勝ち。ゲームは1対1のトーナメント方式で進んでいく。例会で開催されるゲームで過去3回優勝した強者は、グランドチャンピオンの称号を与えられている。今回は、県内外から18人がエントリーした。
ツワモノになればなるほど、内出血のダメージを負う。ここで冷却シートが再登場。
「強い人になると、構えから何から違うんだ」と、会員の1人が教えてくれた。勝つためには、コツもテクニックも必要なのだ。ハゲ頭はよく磨き、タオルなどでサラサラにしておく。自分の頭の一番よい場所を知っておき、微妙な力加減を駆使する。一瞬の油断が命取りになるという。正直、ここまでエキサイティングな戦いが繰り広げられるとは想像していなかった。トーナメントが進むにつれ、1試合にかかる時間も、緊張感も増していく。そして、頭には勇者の印がくっきりと赤く残る。これには、感動すら覚えた。ちなみにこの吸盤綱引き競技は、2015年から年1回の全国大会も開催されるようになった。
高橋さんが2-1で競り勝ち、2度目の優勝こけしを手にした。
決勝は青森市の声楽家・高橋さんと、板柳町の自衛官・神さんが対戦。会場は、この日1番の盛り上がりをみせた。
たくさん笑って、心も体もリフレッシュ。
最後は、例会参加会員全員で「ツル多ハゲ音頭」などの会歌を斉唱。こうして有多毛は幕を閉じた。終始笑顔の会員たちから、本気で楽しんでいる様子が伝わってきた。この笑顔が、鶴田を、青森を、そして日本、世界をも笑顔にする。
「〝有多毛〟の夜を、満月が優しく照らしていた」
会場を出ると、頭上には本物の名月が。この月以上に明るい光があると、初めて知った夜だった。

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